私は天使なんかじゃない








休息





  何事も休息は必要だ。
  もっとも、それが許されるかはまた別物。





  颯爽とエンジンコアに帰還。
  誰一人欠けていない。
  私は出迎えてくれたソマーに高らかに宣言する。
  「陥落させてきたわ」
  私らが潜ってる間に倉庫からまた物を持ってきたようだ。溢れている。食べ物、飲み物、武器、弾薬……何故に自販機ごと持ってきたんだ……。
  「お帰り。活躍したの?」
  「保安官は何もしてないがな」
  「だよな、ギャラリーだったぜ」
  「だよねー☆」
  ……。
  ……冷たいですね、ご一同様。
  ハンガー陥落。
  これで二か所の重要施設は私たちの手によって壊滅、人類同盟軍がエイリアン軍を出し抜きました。
  確かに私は役立たずでしたともっ!ケッ
  チョイ悪親父のポールソン、マフィアでマジ悪親父のMr.クラブはエイリアン退治に貢献してたし、スーパー幼女のサリーはエイリアン軍を蹴散らした。
  そうですともそうですとも。
  ミスティちゃんは役立たずですともーっ!ケッ
  「おや?」
  やさぐれてて気付かなかったけどメンツが足りない。
  ソマーしかいない。
  他のはどこ行った?
  「酒でも飲もうぜ、カウボーイ」
  「いいな」
  「今の時代も禁酒法とかあるのだろうかな」
  「何だそりゃ? 禁酒が法なのか?」
  「俺の時はそうだったのさ。良い時代だったぜ、人間一度覚えた嗜好は簡単には捨てられないからな。高値で売れるのさ、出来の悪い密造酒でもよ」
  「クソみたいな法だな」
  「まったくだ」
  ほほう?
  完全にお友達ですね、ポールソンとMr.クラブ。
  エイリアンどもの倉庫から強奪してきた酒精の類をそれぞれ手に取り、ツマミも適当に漁ってからどこからか持ってきたソファにどかっと腰を下ろして酒盛りを始める。
  そういや私もお腹空いたなー。
  「ミスティ、私も休憩するね」
  「分かった」
  「バターカップであーそぼ☆」
  可愛いですね。
  癒しです。
  もっともこのスーパー幼女の方が私よりはるかに役立っているという事実。
  エイリアン母船の中を一番歩き回れるし、システム弄れるし、果てはエイリアンどもがここに直接ワープしてくるのを防ぐためにジャマー展開できるし。
  あれ?
  私いらなくね?
  おおぅ。
  「どうしたのさ、ミスティ」
  「な、何でもない」
  「また役立たずだったわけ?」
  「が、頑張ったわ、頑張りきれなかっただけで……」
  「こりゃ囮作戦で使うしかないかねぇ。エイリアンに掴まったら脱走の罪できっとネチネチと交配実験とかされちゃう……おおっと、よからぬことを口にしてしまった」
  「すいません頑張りますから見捨てないでください」
  未だ一匹も倒しておらず。
  私、役立たず☆
  ぐはぁっ!(吐血)
  「冗談だよ」
  「そ、そう願います」
  サリーはバターカップで遊んでいる。
  バターカップ、まあ、馬の玩具だ。戦前では大ヒットでかなりお高い代物だったらしいけど……戦後世代の私からしたら何が凄いのか全く分からない。サリーは戦前世代だからお気に入りだし
  夢中みたいだけどさ。だけど考えてみたらサリーは私より年上になるのか?
  まあ、こんがらがるから見た目相応で考えたほうが楽か。
  「何で自販機持ってきたわけ?」
  「さあ」
  「さあ?」
  「私じゃないよ。私がそこらうろうろしてた時に他の奴らが持ってきたんじゃないの? まあ、確かに倉庫には自販機のパラダイスかよってぐらい置いてあったけどさ」
  「ふぅん」
  「ところでミスティ、どんな感じだった?」
  「何が?」
  「エイリアンどもだよ」
  そこまで言ってから、ソマーは座ろうと言って壁を背に腰を下ろした。
  私も座る。
  何だかんだでこれはまだ一日目の出来事だし。
  働き過ぎだ。
  寝かせてくれ。
  何か食べさせてくれ。
  ボルト101を飛び出してキャピタルでの初夜の途中に拉致られたんだ、満足に寝れていないしボルトのごたごたでそもそも疲れたままのスタートだったし。
  うー、セーブして今日は落ちたいです。
  おおぅ。
  「護りは堅かった?」
  「まあまあかな」
  私は役立たずでしたけどねー。
  「そもそもこの人数で、しかも全員投入じゃないのに勝っている、そう考えたらエイリアンたちは……」
  「脆弱ってかい?」
  「そこまでは言わない。ただ、テクノロジーに頼り過ぎな感じがする。肉体的には確かに脆いし、でもそれ以上に驕ってる感があるかな。たかがモルモット風情とか思ってそう。そこで付け入る隙だと思う」
  「……」
  「何?」
  「あんたは頭が良い、そこを活かせばいいんじゃないの?」
  「ありがとう」

  「保安官はそれ以外だと馬の骨だけどなっ!」
  「失礼だぜ。せめて足手まといで勘弁してやれって」

  「……」
  「ま、まあ、元気だしなよ」
  酔っ払いどもめーっ!
  突出して孤立する策でも立ててあげたっていいんだよー?ケッケッケッ
  「と、ところで防衛は大丈夫だった?」
  「ああ。あんたらが潜っているところ以外は封鎖してあるし、テレポートジャマーが展開されていたから襲撃はなかったよ。現状最後の襲撃地点である冷却ラボは大人しいものさ。扉叩く音すら聞こえない」
  「気付いていない?」
  「かもね」
  あり得るのか、そんなことが。
  そもそも連中は人間ではないし思考が分からないから、ありえるのかも。
  まあいい。
  「他の皆は?」
  「エンジェルはローズを連れてエンジンコアのどこかにいるよ。研究したいんだとさ」
  「ロー……あー」
  ダメだ。
  まだ絡みがないからどんな人か分からないな、ローズさん。リベットシティというところのセキュリティ兵らしいけど、今のところお留守番オンリーで特に会話もないし。
  「ターコリエンたちは?」
  「あの腰抜け衛生兵はDr.サムソンと小部屋でよろしくやってるよ。アーッてやつさ」
  「……?」
  ニヤニヤ顔のソマーの意味が分からない。
  Why?
  私の表情を見て、ソマーは鼻の頭を掻きながら言った。
  「餓鬼か、あんた」
  「失礼な。19歳になったから餓鬼ではないわよ」
  「精神的には餓鬼さ」
  「はあ?」
  「まあいいさ。さっきのは冗談だ。薬品室を見つけたから試行錯誤してる。エイリアンの薬だから何が何だか分からないようだけどさ」
  「ふぅん」
  見て来るかな。
  立ち上がる。
  「そうだ。ソマー」
  「何?」
  「あなたは下では何してたの? 機械いじり得意だったし、そっち方面?」
  「あれは趣味だよ」
  「良い趣味ね」
  「下では、そうね、捕まえて首輪を付けて教育する仕事をしてたのさ」
  「あー、飼育関係ってこと?」
  「そんな感じ」
  「ふぅん」
  「本当はもっと大きなことをしたいんだけどね、漠然とだけど。だから金を貯めているのさ。そういう意味での、仕事。とはいえどんな大きなことをするかは決めてないけど」
  「決めてないけど?」
  「うーん。人の上に立つようになりたいかな。そうなったら私の踏み台になって頂戴ね」
  「……えぐいこと言うわね」
  「あははははは。冗談だよ。まあ、その前にエイリアンどもを何とかしなきゃだけどさ」
  「そうね」
  今度こそ私は立ち去る。
  飼育かぁ。
  下には動物園でもあるのか?
  ああ、そうか、個人の金持ちに売ったりするのかも、愛玩動物的な感じで。未だに下がどんな感じか分からないから憶測でしか想像できないのが辛いけど仕方ない。
  第一キャピタル人に会う前にいきなり拉致されたしなー。
  小部屋を探してあっちこっち彷徨う。
  このエリアの敵は掃討してあるし武器も持ってる、問題ない。
  上手く使えないとはいえ時間操作的なことが出来るし、私。
  あの能力は何なんだろう?
  錯覚?
  いやぁ、錯覚って感じでもなかったなぁ。

  「そ、そうなのか?」
  「騙すようで申し訳ない」

  おっ。
  声が聞こえてきた。
  えーっと、ああ、ここかな。扉を開ける。
  いたいた。
  ターコリエンとDr.サムソンだ。薬品棚に所狭しと薬品が置かれているけど、これは多分エイリアンたちの文明の物だろう。さっぱり分からん。まあ、人類の薬品も専門外で分かんないけど。
  一応はボルトで医者の真似事をパパに習ったけど、どこまで本職に通用するのかねぇ。
  パパ曰く、医者は度胸とか言ってたな。
  確かにがーっとやって、どりゃーと挑む勢いも欲しい時は欲しいだろうけど。
  ……。
  ……駄目だな、クリニック・ミスティは初日に患者殺すなー。
  ターコリエンは上機嫌そうだ。
  サムソンと何かをボウルの中でこね回している。
  ジェルっぽい?
  「やあ、ミスティ。ハンガーはどうなったんだ?」
  「潰した」
  「さすがだね。私は駄目さ。怖くて震えちまう」
  「機嫌良さそうね。どうしたの?」
  「後方支援要員だからさ」
  「……?」
  「徴収されるまでは外科医だったんだ。内科医ならって呪ったよ、戦争が始まったらね。弾で撃たれた兵士の体を縫ったりするのが私の仕事だったのさ、前線でね」
  「ああ、外科医上がりだったから衛生兵で前線だったのね」
  「そういうことだ。内科医なら後方のテントで、たまに往診するだけで済んだんだけどね。……これでよしっと」
  「何それ?」
  「改良型バイオジェルさ」
  「改良型って、そもそも第一段階を知らないんだけど」
  「まあ堅いこと言うなって。こいつを傷口に塗れば治るって寸法さ。エイリアンどもはこれを塗ってた。そのジェルに、スティムパックの成分をちょっと加えて完成させたのがそれさ。試作品は今の
  ところはこれしかないが持って行ってくれ。使ってみてどんな感じかを後で聞かせてくれ」
  「……副作用はないんでしょうね?」
  「さあ?」
  「……」
  「もしかしたら生化学的異常が出るかもしれない。あくまで試作品ってことを念頭に入れて欲しい」
  そう言ったのはDr.サムソン。
  まあ、仕方ない。
  回復アイテムがあるだけマシか。
  Drサムソンはジェルを何かの小さな瓶に詰めて私に手渡す。
  「患部に塗ってくれ」
  「ありがとう」
  私はモルモットか。
  あるだけありがたいとはいえかなり怖いぞ、これ。
  「だけどターコリエン」
  「なんだい?」
  「スティム混ぜなくてもスティムだけでいいんじゃないの? というスティムちょうだいよ」
  「とんでもない。そいつは理論的にはスティムを遥かに超える治癒力だぞ」
  「どう理論付けたわけ?」
  「それは……」
  「それは?」
  「fallout3用語集を見たんだよ」
  「はっ?」
  「ともかく安心安全だってことさ」
  「えーっと」
  意味分からん。
  メタ的な発言はやめて欲しいものだ。
  「だけどターコリエンは軍人でしょ?」
  「それが?」
  「何だって後方支援要員って決まったの? さっきそう言ってたでしょ?」
  「ああ。それはだな」
  咳払いしてDr.サムソンを見る。
  アジアのお医者さんはバツが悪そうな顔をした。
  「どういうこと?」
  「実はだな、彼は医者じゃないんだ」
  「医者じゃない?」
  「タートルダヴ収容所とかいう場所での職が欲しくてでっち上げた経歴だそうだ」
  「ヤブ医者ってこと?」
  「それは言い過ぎだ、あまり相応しくない医者ってことだ」
  言い直すDr.サムソン。
  だけど言い直そうとも何も変わってないだろ、本質は。
  「そんなんで就職できるの? ばれるでしょう?」
  「タートルダヴ収容所は政治犯を閉じ込めるところでね、別に医者が本当に欲しいわけじゃないんだよ。コネとハッタリで就職しようと思ってたのだよ。それに、ほら、拷問要員にもなれるし」
  「ま、まあ、ヤブ医者は拷問要員よね」
  「だろう?」
  何だその勝ち誇った顔は。
  まともな奴いないのかよ。
  「つまりだ」
  ターコリエンが締めくくる。
  「つまりだ、まともな医者は私だけ。つまり私は後方支援……」

  「未来の軍人さんよ、俺と冷却何とかってところに遊びに行こうぜっ! チビスケどもを殺したくてうずうずしてるんだっ!」

  「……後方支援……」
  「ほら、ポールソンが呼んでるわよ?」
  「……はい……」
  「さて、お仕事お仕事っと」
  私も行こう。
  今度こそお役に立たないとね。